子宮欠損症への代理出産
現在、代理出産治療の新規相談は受け付けておりませんが、引き続きみなさんのご意見、国に対する要望、当事者の声を受け付けております。
代理出産について
はじまり
体外受精施設を建築中の某日、一人の女性が訪れたのです。その方はロキタンスキー症候群の方で、その方の妊娠不可能なことを承知の上でプロポーズされ、その彼への熱い思いからの代理出産に関する打診でした。
その時、このような生殖障碍者に対し何とかしなければとの思いが、1996年8月体外受精施設を開設するや否や爆発。一般的体外受精と共に、代理出産を含む生殖障碍者への体外受精をスタートすることになったのです。最初に訪れた女性はその後来院しませんでしたが、暫くして受診された同じくロキタンスキー症候群の方に対し、姉が代理母を申し出て来たケースが当院最初の代理出産治療例となりました。
その後・休止
先天的子宮欠損は当然のこと、後天的子宮欠損例において卵巣機能は現存、乃至は卵巣や卵子が保存されており、猶且つ、御夫妻が実子を望み、そのことに対し全面的に協力しボランティア行為の下で代理出産される代理母となられる方がおられる場合を代理出産適応例としています。
当院での代理出産既往例は、姉妹義姉妹間が10例で4例から6人の子どもが誕生。しかし、子育て中の代理母を取り巻く環境は、代理出産が公認されていない現状下ではマイナートラブルが生じ易く、結局母親から代理母を申し出て来たケースに続く母娘間を条件で代理出産を続行、11例に施行し10例から10人の子どもが誕生することとなりました。しかし、当たり前の如く行われている妊娠・出産には様々なトラブルが付きもので、最悪の場合は死に至る(1万人に1人弱の頻度)こともあるため、国の検討が始まった頃の2014年1月の出産を最後に、当院における代理出産は休止状態にあります。
代理出産に関する今後の方針
2014年以来、国内での代理出産は行われておりませんが、問い合わせが来ていることと、国外で行われる代理出産が高額で取り引きされたり、様々な問題を惹き起こしたり、最近は適応外と考えられるケースが美談として扱われたりと、日本人として恥ずかしい現状を目の当たりにしながら手をこまねいているのが現状。そして何よりも、生殖障碍者がなおざりにされ続けている状態を、日本の代理出産の口火を切った施設として、最早看過できない状況下にあります。
もし代理出産を再開するならば
代理出産に関する過去の経験を踏まえ、以下のことを厳守する必要あり
(1)あくまでもボランティア精神の下で行う
(2)金銭の授受は経費の範囲以内
(3)国としての代理出産に関する体制が構築されていない現在においては、母娘間での代理出産が最も相応しい間柄と考える。
①その利点は
イ)母娘間や父娘間、そしてそれ等を取り巻く人々との意思の疎通が成り立ち易い。
ロ)代理母を姉妹間や友人間等の妊娠可能年齢の女性とする場合には、関係する夫婦間での妊娠をコントロールする必要があるが、母娘間では代理母のほとんどが閉経後か閉経前であっても、合併妊娠の可能性は考えにくい。
②その問題点と対策
イ)代理母としての条件としては、全身の人間ドックで全く異常が無いことは当然であるが、娘の母親が妊娠することは、高齢妊娠・出産となり、様々な危険性を十分承知置く必要がある。
ロ)代理母に子宮筋腫、子宮癌、乳癌等の合併が考えられる為、それ等のチェックと未然の対応を要する。
ハ)代理母の妊娠・出産における不慮の事故への対策、特に保険体制
ニ)異常が起き易い代理母への厳重チェックの為、妊娠7ヶ月頃より病院附属施設における母と娘の共同生活と毎日の代理母と児の健康チェック。そうすることは、依頼母である娘の妊娠・出産を自分のこととして自覚を深めることができる。
ホ)依頼母の娘は、本来なら母乳を与えられないわけである。しかし、代理母が妊娠5ヶ月頃になった頃から卵胞・黄体ホルモン投与と、7ヶ月頃からのスルピリド(ドグマチール)等の血中プロラクチン上昇作用を応用した投与により、依頼母が少しでも母乳哺育を可能にすることができる。
※以上ですが、以後、今までの「ガイドライン」と「心得」について提示し、再開への含みを持たせていただきます。
取り組みと歩み
現在、代理出産治療の新規相談は受け付けておりませんが、引き続きみなさんのご意見、国に対する要望、当事者の声を受け付けております。
日本には、代理出産を禁止する法律はありません。ただし、日本産科婦人科学会(日産婦)は1983年、「体外受精の実施は夫婦に限り、受精した卵子はそれを採取した女性に戻す」という会告(規則)を定めました。これにより、非配偶者体外受精と同じく代理出産もまた、日本産科婦人科学会においておこなえないこととなりました。
しかし海外では、代理出産を法律で許可している国、法律はないが許容している国があります。そのため、海外に渡って代理出産で子どもを得た夫婦も数多くおり、その数は既に100組を超えるとも言われています。日本では認めず、一方では海外に依存するという現状を生んでいるのです。
そうしたなか当病院では、1995年にロキタンスキー症候群(生まれつき子宮がない疾患・遺伝に関係なく4~5,000人に1人の割合で生まれる)の女性患者さんと出会ったことをきっかけに、代理出産の実施を考えるようになりました。翌1996年に不妊治療体制をスタートしたのを機に、ガイドラインを整えて取り組み始め、そして2001年、子宮摘出をした姉夫婦のために妹が代理母となり出産したケースを公表しました(日本初)。(2006年より、代理母は依頼母の実母に限っています。)
日産婦は2003年、あらためて「代理出産禁止」の会告を出して禁止しました。また、日本学術会議の生殖補助医療の在り方検討委員会(2006年12月~2008年3月開催)は、2008年4月に厚生労働大臣・法務大臣に提出した報告書で、代理出産を「原則禁止とすべき」としました。
さらに、2009年2月28日には、日産婦より当病院に対し、代理出産実施に関する厳重注意処分が届いています。
しかし、現実には代理出産を望んでいる人はおり、今後も海外に活路を求める人は増え続けると思います。
このほか、生まれてくる子の立場や法的地位を守るため、民法改正なども必要と考えます。現行法において、依頼夫婦の子であるとの解釈は可能であるという話もありますが、現状としては判例において、子どもの母は「産んだ女性」とされ(1962年最高裁判例)、父親は「その女性の夫」(民法)とされているため、向井亜紀さん・高田延彦さん夫妻がアメリカで代理出産により双子を得たケースでは、出生届けが受理されないという事態が起きました。
当院の実施状況
代理出産に関する国の法律はないため、当病院では代理出産に関する独自のガイドラインを設けて実施してきました。
当病院ではこれまでに21例について代理出産を試み、14例出産16人誕生(うち実母による代理出産では、11例中10例出産10人誕生)が誕生しています(2014年3月末現在)。
代理出産には下記の方法があります。うち当病院では当面「1-A」のみを実施してきました。そのほかの方法は今後の課題と考えています。
1.体外受精による代理出産
1-A.依頼夫婦の受精卵を使った代理出産
依頼夫婦の精子と卵子を体外受精させてできた受精卵を、第三者の女性(代理母)の子宮に移植して子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦と生まれた子との遺伝的つながりは保たれる。
1-B.第三者の精子または卵子を使った代理出産
依頼夫婦の精子または卵子を、第三者の卵子(代理母とは異なる女性の卵子)または精子と体外受精させて受精卵をつくり、それを第三者の女性(代理母)に移植して、子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦と生まれた子との間の遺伝的つながりは、夫婦どちらかにはあることになる。
1-C.第三者の受精卵を使った代理出産
精子も卵子も第三者のものを体外受精させて受精卵をつくり、それをさらに別の第三者の女性(代理母)に移植して、子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦や代理母と、生まれた子との間に遺伝的つながりはない。
2.人工授精による代理出産
歴史的には最も早くからおこなわれてきた代理出産。依頼夫婦の夫の精液を、第三者の女性(代理母)の子宮に注入(人工授精)して、子どもを得る方法。この場合、子どもの遺伝上の母親は代理母となり、依頼夫婦と生まれた子との間の遺伝的つながりは、夫のみが持つ。
ガイドラインではまず、前述の「1-A」のみ実施することとし、対象者は「婚姻関係にある夫婦で、妻が子宮が先天的もしくは後天的にない45歳までの場合」と限っています。45歳としたのは、通常でも女性が45歳以上の場合の妊娠は皆無に近く、出産したとしても子どもが成人になるまでに夫婦が養育できるか体力的・経済的にもリスクが高いと考えるためです。
代理母については、当面は「依頼妻の実母に限り、原則として60歳前後までの方」としています(代理母の健康状態により年齢は多少の増減あり。法整備や補償制度のない現状において、代理母を実母とするのが最もトラブルやストレス等が少ないとの考えから)
生まれた子については、現行民法などへの対応上、いったん代理母の子として出生届けを出し、後に依頼夫婦の子として養子縁組をすることにしています。
ただし最近のケースでは、「普通養子縁組」ではなく「特別養子縁組」が裁判所により適用されました。この場合、戸籍には依頼夫婦の「長男」「長女」などと実子と同じ記載がされるので、養子であることは一見は分かりにくくなり、また法的に実子同様の扱いとなります。普通養子縁組より特別養子縁組の方が代理出産において子の福祉のためには良いと考えられています。
なお、将来的には、代理母となる女性に万が一のことが生じた場合の補償制度なども整備していく必要があると思っています。
代理出産を巡る当院と社会情勢の経緯
| 1995年 | ー | 20代前半未婚女性のロキタンスキー症候群(卵巣はあっても生まれつき子宮がない)の患者さん当院に来院。根津院長、代理出産についてより真剣に考えはじめる。 |
| 2000年1月 | ー | 姉のかわりに子供を産んであげたいとの代理出産の依頼の手紙が当院に届く。姉夫婦の受精卵を妹の子宮に移植。二度目で着床に至る。 |
| 2001年 | ー | 当院において代理出産により1児出産。養子縁組される。 |
| 2001年5月 | ー | 根津院長、国内初の代理出産実施を公表 |
| 2003年1月 | ー | 厚生労働省が実施した、国民の意識調査 妻が子供を産めない場合に夫婦の受精卵を使って他の女性に産んでもらう代理出産を 認めてよい 45.8% 認められない 22.0% |
| 2003年3月 | ー | 根津院長代理出産2例目公表 |
| 2003年10月 | ー | 米国にて代理出産した西日本の50代夫妻の双子の出生届が不受理になったことが判明 |
| 2003年4月 | ー | 厚労省生殖補助医療部会が罰則付きで禁止すべきとする報告書案をまとめる。日本産科婦人科学会も会告で禁止 |
| 2003年11月 | ー | タレントの向井亜紀さん夫妻が米国にて代理出産を実施、代理母が双子の男児出産 |
| 2005年11月 | ー | 米国にて代理出産した西日本の50代夫妻の双子の出生届不受理が最高裁で確定 |
| 2006年9月 | ー | 向井亜紀さん夫妻が提出した出生届が不受理とされた問題で、東京高裁が「向井さん夫妻を親とすることが子の福祉にかなう」と、東京都品川区に受理を命じる決定 |
| 2006年10月 | ー | 根津院長、50代後半の母が娘の代わりに孫を代理出産した例を公表。過去2例を含め代理出産実施は5例に。 |
| 2006年11月 | ー | 法務省と厚労省が日本学術会議に生殖補助医療をめぐる諸問題関する審議を依頼 |
| 2006年12月 | ー | 民主党作業チームが代理出産を認める中間報告 |
| 2007年3月 | ー | 最高裁で向井亜紀さん夫妻の双子の出生届不受理が確定 |
| 2007年3月 | ー | 厚生労働省が実施した、国民の意識調査 妻が子供を産めない場合に夫婦の受精卵を使って他の女性に産んでもらう代理出産を 認めてよい 54.0% 認められない 16.0% 分からない 29.7% |
| 2007年4月 | ー | NHK世論調査 代理出産で産まれた子供を、受精卵を提供した夫婦の法律上の子供として認めるべきだと思うか。 認めるべきだ 56.0% 認めるべきでない 12.0% |
| 2007年8月 | ー | 第8回日本学術会議「生殖補助医療の在り方検討委員会」 当事者からの声という事で、実施医師として根津医師、依頼者として向井亜紀さんが呼ばれる。 |
| 2008年1月 | ー | 日本学術会議の検討委員会が、代理出産を新法で禁止するとする報告書案をまとめる 公開講演会が開催される。 |
| 2008年1月 | ー | 根津医師5例後、2組出産し、1組妊娠継続中と公表 |
| 2008年2月 | ー | 日本学術会議「生殖補助医療の在り方検討委員会」において、代理出産は原則禁止の最終報告書案が出される。 |
| 2008年4月16日 | ー | 日本学術会議におけるで最終報告書が法務省・厚生労働省に提出される。 |

